南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『哲学の役割』(価Ⅲ=36)

 
              『哲学の役割』

                                 価値観の研究第三部 その36

1.自然科学や社会科学のめざましい発展がみられる現代社会においては、哲学の役割は相対的には小さくなったと言えよう。たとえば、アリストテレスのようなあらゆる分野に通じた偉人がいた時代と現代とでは様相がかなり異なっていると言えるのではないだろうか。 

2.数学、物理学、相対性理論量子力学分子生物学、医学、工学、化学、情報工学その他さまざまなジャンルの学問分野があり、それぞれに最先端を行く研究者たちが成果を競っている状況にある。
 従来は、謎と思われていたことも、徐々に明らかになっていることがあまたある。宇宙の成り立ちや、四つの力、素粒子、生物の進化、遺伝子、DNA等が代表例である。
 それでは、すべては明らかになったのだろうか?どんなことについてもアプローチの仕方にある程度の見当がついたのだろうか?
 最近における科学技術の目覚ましい進歩は多くの謎を解明したものの、まだまだ分からないないことだらけだというのが正確な捉え方ではないだろうか?

3.宇宙のはじまる前はなにも無かったのか?
宇宙の未来はどうなるのか?膨張し続けてやがて消滅してしまうのか?
宇宙が消滅してもまた新たに誕生するのか?宇宙はほかにもあるのか?
時空はほんとうにゆがんでいるのか?宇宙の外側にはなにがあるのか?
4つの力の統一理論はいつ完成するのか?超弦理論は有望なのか?いつごろ完成するのか?等素朴な疑問がいろいろわいてくる。
 そもそも地球上に生きる人間の常識は真の意味で科学的裏付けが得られているとは限らないだろう。
 これまでに明らかになっていないことを数え上げようとすればきわめて膨大であり、無限に近いと憶測できる。

4.哲学の出番のひとつは、そういうわかっていないことが無数に存在するということを常に指摘し続けるという役割として求められる。
 たとえば、ずいぶん学問が進歩して大概のことなら調べられるようになったと思いがちな多くのひとびとのために、まだまだ世界はなぞだらけで、当分の間はすべてが解決されるなんてことはあり得ないだろうという認識をしてもらっておくということである。

5.あるいは、なにが正義か?なにが罪か?なにが悪か?真善美とはなにか?生きる意義はなにか?死後はどうなるのか?等の倫理や宗教的な問いもまた、哲学が扱うことになると思われる。
 科学は観測を通じて宇宙や生命を把握しさまざまな事象を説明する理論は構築するが、なぜ宇宙や生命が誕生したのか?という問いには答えきれていない。哲学は、人間社会に過剰に介入すべきではないが、今日においてもなおその重要性を失ってはいないと思われる。