南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『理性と感情について』(価Ⅲ=49)

 

          『理性と感情について』(価Ⅲ=49)

                                 価値観の研究第三部 その49

1. 人間は、他の動物に比べて脳の発達が著しい。知的な要素が格段に発達している。脳幹というような動物的な本能をつかさどる部位に加えて皮質といった知性をつかさどる部位があって、人間に複雑な思考や行動を可能とさせている。

2. 人間関係の難しさは、そうした脳の構造と機能によるものと考えてよいだろう。「論理的には了解しても、感情的に反発する」「頭ではわかっても、気持ちが納得しない」「いい人だとは思うが、好きにはなれない」というような人間の心理はしばしば観察される。

3. 「分析と総合」と言うように、いくら人間の臓器を細分して調べても、全体として人間の身体が機能していることを離れては有効な研究にはならないわけである。理性や知性と本能や感情とはひとりの人間のいろいろな働きを分類したものであって、実際には不可分のものかもしれない。

4. 仕事上の人間関係なら、感情をコントロールしながら、業務のために論理的な行動をしようという約束があるわけだが、個人的な付き合いとなると、そういうルールはない。
 友人関係も馬の合う同士が親しくなったりなにかのきっかけで離れたりもする。
 恋愛関係ともなれば、好き嫌いとか愛憎といった微妙な分野に係わるので、さらにややこしい側面がる。

5. 結婚は、恋愛結婚、見合い結婚、親が決めた結婚、政略結婚など歴史的、地理的、社会的な相違や推移によってさまざまな形態が存在してきた。
恋愛結婚についてみると、好き嫌いというような不安定な感情をもとに結婚という法的社会的関係を固定させるというところに、元来危うさが内在しているとも言える。

6. 結婚する際に考えておくべきなのは、一時の感情で結婚したとして、永遠に愛し続ける保証などどこにもないのだから、愛情が失われたら、どうするのかをある程度覚悟しておく必要があるだろうということである。子供ができていればなおさら問題は深刻である。子供のために離婚は思いとどまるのか、離婚せざるを得ないのか、あらかじめ決めておくことは難しくても、そういう選択を迫られることがありうるということは考えておくべきだろう。

7. 以上、最悪のケースを想定して話をしたが、現実には、多くの夫婦が子供とともに幸せな家族生活を送っているのも事実である。いろいろな可能性を念頭に置きながら、決断をすることになるが、先のことはなかなか見通せないので、なにか起きたときにその都度よく考えて行動するということしかありえないのかもしれない。それが、理性と感情という矛盾に満ちた機能を負わされた人間の宿命なのかもしれないが、だからと言っていたずらに悲観する必要もない。ちょっとした気の持ちようで人間の気持ちは明るくも暗くもなり得るのだから。