南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

シェークスピア ソネット 98

 

ソネット 98

 

      W.シェークスピア

 

色とりどりの4月が飾り立てた衣裳に身を包み

あらゆるものに若さのエッセンスを吹き込む春の間

わたしはあなたのいない時間を過ごしてきた

暗鬱なサトゥルヌスさえ4月には笑って跳び跳ねたのだった、

小鳥の歌声も

様々な香りや色合いを持つ花たちの甘い匂いも

わたしに楽しい話をする気にはさせなかったし

それらの花々が育った誇らしい土地から摘み取ることもしなかった、

また百合の白さに心を動かされることもなかったし

薔薇の深い紅を愛でることもなかった

それらはすべてあなたという原型をもとに描かれた

甘美さに過ぎず、喜ばしい模写に過ぎなかった、

あなたがいないのでまだ冬であるように思えた

あなたの影と戯れるかのようにわたしはこれらのものと戯れた。

 

 

 

Sonnet XCVIII

 

        W. Shakespeare

 

From you have I been absent in the spring,

When proud pied April, dressed in all his trim,

Hath put a spirit of youth in every thing,

That heavy Saturn laughed and leapt with him.

Yet nor the lays of birds, nor the sweet smell

Of different flowers in odour and in hue,

Could make me any summer's story tell,

Or from their proud lap pluck them where they grew:

Nor did I wonder at the lily's white,

Nor praise the deep vermilion in the rose;

They were but sweet, but figures of delight,

Drawn after you, you pattern of all those.

   Yet seemed it winter still, and you away,

   As with your shadow I with these did play.

詩「散歩」

 

    散 歩

 

           南原充士

 

晴れの恵み

夕刻の軽い散歩

気分転換

自分なりのリズム

平凡すぎる一日が無事終わることの非凡

すれ違うひとは老若男女すべてマスクをしている

どことなく離れようとする心理

人と人との磁力は逆転してしまったか?

至近距離で接しているのは子供たち

心に浮かぶ医師・看護師 レジ係、配達員の姿

しばらく景色の中へ迷い込んで

今我に帰る

シェークスピア ソネット 97

 

ソネット 97

 

                   W.シェークスピア

 

 

あなたと離れていた期間は、過ぎ去る年の愉悦を失い

わたしにとってあたかも冬のような時期だった

なんとも凍えるような寒さを味わい、暗い日々を過ごし

いたるところに年の暮れ12月の荒涼とした景色を見たことであろうか!

だが今過ぎ去ったのは夏という季節だ

豊かな実りの秋が訪れ 

主人を亡くした未亡人の子宮のように

青春の放蕩が実を結ぶ、

この豊饒な実りもわたしには

ただ孤児の出生見込みであり、父無し児の出産にしか見えなかった

なぜなら夏の季節とその賑わいはあなたにかしずき

あなたが不在の時は鳥たちさえもさえずることはないからだ、

あるいは鳥たちはさえずるとしてもいかにも生気を欠き

木の葉は冬の到来を恐れるあまり色を失ってしまう。

 

 

Sonnet XCVII

 

       W. Shakespeare

 

How like a winter hath my absence been

From thee, the pleasure of the fleeting year!

What freezings have I felt, what dark days seen!

What old December's bareness everywhere!

And yet this time removed was summer's time;

The teeming autumn, big with rich increase,

Bearing the wanton burden of the prime,

Like widow'd wombs after their lords' decease:

Yet this abundant issue seemed to me

But hope of orphans, and unfathered fruit;

For summer and his pleasures wait on thee,

And, thou away, the very birds are mute:

   Or, if they sing, 'tis with so dull a cheer,

   That leaves look pale, dreading the winter's near.

人影

   人 影

 

         南原充士

 

ちょっと元気のないひと

それはあなただ

ふきげんな自分をもてあますあなただ

なぜこんなに気持ちが滅入るのか

おおよそは感じているが

はっきりそれだとはいいにくい

こんな自分は本当の自分ではない

ふと聞こえる小鳥の声に心惹かれるあなた

窓から外を見るカーテンの向こうの人影

それはわたしだ

 

シェークスピア ソネット 96

 

ソネット 96

 

       W.シェークスピア

 

 

あなたの短所は若さだと言う者も、放蕩だと言う者もいる

あなたの長所は若さと気品のある遊びだと言う者もいる

多かれ少なかれ長所も短所も愛される

あなたは短所もまた自らの長所に変えてしまう、

王座に就いた女王の指にはめれば

ひどく安っぽい宝石さえ高価に見えるだろう

あなたに見受けられる過ちもまたそのように

真実と受け止められ、事実だとみなされる、

狼が羊のように変装できるとしたら

冷酷な狼はどれほど多くの羊を裏切るだろう

あなたが持っているあらゆる種類の力を駆使するとしたら

どれほど多くの賛美者の目を欺くことになるだろうか、

だがあなたはそんなことをしてはいけない

あなたはわたしのものであり あなたの評判のよさもわたしと一体だ

わたしはそんなふうにあなたを愛しているのだから。

 

 

Sonnet XCVI

 

         W. Shakespeare

 

Some say thy fault is youth, some wantonness;

Some say thy grace is youth and gentle sport;

Both grace and faults are lov'd of more and less:

Thou mak'st faults graces that to thee resort.

As on the finger of a throned queen

The basest jewel will be well esteem'd,

So are those errors that in thee are seen

To truths translated, and for true things deem'd.

How many lambs might the stern wolf betray,

If like a lamb he could his looks translate!

How many gazers mightst thou lead away,

If thou wouldst use the strength of all thy state!

   But do not so, I love thee in such sort,

   As thou being mine, mine is thy good report.

オプティミスト(57577系短詩)

 

オプティミスト(57577系短詩)

 

               南原充士

 

 

空間の 脱ぎ替わりこそ 時間なら 巨大な皮を 剥ぎ取る鋏

 

いつのまに いらつくひとは だれだろう 鏡を見れば 見知らぬ顔よ

 

わけもなく 大声を出し おどろいて 気まずくなれば 居場所に困る

 

いくたびも 痛切に知る 愚かさよ 開き直って 落語の時間

 

こもりつつ おいしい たのしい うれしい おもしろい きもちいい すがすがしいとかのとき

 

起きる 顔洗う 歯を磨く 髭を剃る TVを見る

食事する 休息する PCを開く 新聞を読む 体操する

メールする 電話する 散歩する 買い物する FMを聴く

食事する 入浴する 寝る

 

こんなこと そんなこととか あんなこと こんなときにも あんなときにも

 

なにごとも ないかのような 今日の日は 奇跡に近い 特別な日と

 

不都合や 不自由来たり 急病や 失業貧困 放浪の危機

 

予測など できぬ天気の 気まぐれに 翻弄されて 浮かぶ笹舟

 

なにごとも 修練の道 急坂を 登らずしては 奥義に至らず

 

言葉より 行為をみよと 知るはずも 言葉を送る 行為は見えず

 

短冊も 心の中で とりどりの 願いを記し 吊るす七夕

 

はかなさを 繰り返し知る 人の世に 天の眼差し 瞬き続ける

 

きみあなた そちらのひとも あのひとも 同じ喜び 憂いに生きる

 

いかにして 楽天的に 過ごせるか 雨天の彼方 星に願いを

 

ほとんどは 遠く離れて 暮らしつつ 近い同士も 近寄りがたし

 

強面か 柔和な面かに 関わらず ひとなつこさを 隠すにあらず

 

ああ今日も なにごともなく 過ぎゆけば これ以上ない 幸福と知る

 

心情の うつろいやすく はかなければ 強気の言は ためらわず吐く

 

ともにあり ともに生き行く ひとあれば 手をとりあって 星を見上げる

 

毒舌と 言われてみれば そうかもね 今日からきつい 言葉は吐かぬと

 

誓っても 一晩寝れば 元通り そんな愚かな 自分を叱る

 

惻隠の 思いを胸に 身を振れば 濁れる灰汁の 零れ落ち行く

 

スキンシップ 失われゆく 淡薄の 時代となれば 心は砂漠

 

濃厚の 反対語とは 淡薄と 記してみれば 文字薄れゆく

 

コロナ来て 触れ合うことも ままならず 夢幻か うすばかげろう

 

荒れ模様 負けずに心 整えて 体に力 みなぎらせよう

 

胸苦し 言葉もなくて 黙祷す 瞼に浮かぶ 古今の地獄絵

 

そういえば 自分勝手な ひとばかり それが憂き世を 生きる術だと

 

いいひとの ふりをしなけりゃ 生きられぬ あれこれ迷い 困る振りして

 

そもそもが 善悪正邪の 複合体 何を言うのか なにをするのか

 

われもまた 一自由人 奔放に 生きていいよと 託宣聞こゆ

 

降りてこい 神に似たひと 透明な 天女を連れて ここにたゆたえ

 

くりかえし 襲い来る鬱 振り払う ピエロとなりて 世間を巡る

 

今日の日は 楽観の日と 決めたから なにがあっても スマイル消さぬ

 

昨日より 空を仰いだ 生き方へ 変えたと言えば 今日もふんばる

 

らんらんと 歩いてゆけば ドーパミン 会って話して 飲んで歌えば

 

ちくちくと 陰口悪口 きかないと 決めればふしぎ 心晴れ行く

 

そののちに 白い雲間に 夕陽の 白く輝く 西空を見る

 

できるだけ 身近なところ 見聞きして 触ってみれば 考え浮かぶ

 

感覚を 使ってみれば 脳細胞 目覚めて動く 喜悦の軸索

 

助走路を 軽く走れば 身は軽く 浮いて飛んでく オプティミスト

「詩の評価」

 自分なりに考え抜いて詩のテーマを見出し、それをとらえる自分なりの視点も見つけて、これ以上ないと思われる技巧を凝らして一篇の詩を書き上げ、さらに何度も推敲を重ねて完成したと思える詩について、どのような評価が得られるかは気になるところである。

 詩はなかなか客観的な評価をするのが難しい。そこで読者ごとのかなり主観的な評価がなされる。いいか悪いか決定的な材料はない。いいと言ってくれる読者が多いかどうかとか、どういう点がよいかを指摘してくれたかとか、逆にあまりいいと思わなかったとか、どんな点に問題や不満を感じたかとかの指摘があったとかを自分なりに受け止めるほかないのである。

  ある程度信頼度の高い評価としては、詩誌の投稿欄ですぐれた選者に読まれる機会や詩集の各種の賞に応募してすぐれた選考委員による審査を受ける機会などがあるだろう。

  また、詩の仲間との合評会とか、詩の教室での感想とか、詩誌や詩集を送ったことに対する相手からの感想なども参考になる。

  いろいろな評価を真摯に受け止めそれをどのように受け入れたり受け入れなかったりするのは書き手のみが主体的に決定すべきものだ。

  小説でもあるいは音楽や美術でも芸術分野については似たような状況にあるだろう。

 それらの評価は概してどこかもやもやしてあいまいな感じが払拭できないのではないだろうか?

  ひとつのアイデアとしては、評価基準を作成して読者がそれぞれに点数をつけてみることである。フィギュアスケートでは芸術点と技術点がつけられるが、詩に同じ手法を当てはめるのは難しいだろう。ただ、たとえば、以下の10項目について各項目10点満点(全体で100点満点)で点数を付けて合計点数を出してみたら面白くはないだろうか?

 

 1.詩のテーマや視点に独自性があるか?

 2.詩のテーマと文体とがマッチしているか?

 3.詩の長さが適当か?

 4.詩の展開が巧みか(起承転結とか)?

 5.詩の言葉に過不足がないか?

 6.詩の比喩は巧みか?

 7.詩の中に何らかの意外性があるか?

 8.詩が感動を与える度合いは高いか?

 9.詩の特色が生かされているか(抒情、叙事、ロマンティシズム、ユーモア、ホラー、ナンセンス、言葉遊び、日常、幻想、個人、社会、死生観、宇宙その他)

10.詩としての表現技術が全体としてすぐれているか?

 

 ある詩について、読者によってつける点数に差があるだろうから、その違いをもとにいろいろ議論を交わす材料を与えることにもなるだろう。

  詩の評価については意外と未開な部分も多いと思われるので、新たな評価手法が提案されると詩の進歩にも役立つと思うのだが・・・。