南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

八重洋一郎詩集『銀河洪水』

八重洋一郎詩集『銀河洪水』。宇宙的なスケールで人類の歴史を辿ると共に、南の島の情景や暮らしや哀感を描く時も絶えず浮かんでくる銀河のイメージや地上の壮大な生命の営みがダイナミックに溢れ出す。他方、「福への挨拶ー古老説伝」における「袖果報(スディガフ)」の思いやりは限りなく慕わしい。

シェークスピア ソネット 119

 

ソネット 119

 

 

       W. シェークスピア

 

 

内部が地獄のように汚れたフラスコによって蒸留された

サイレンの涙をわたしはどれほど飲んだのだろうか?

恐れを望みに 望みを恐れに塗布して

自分では手に入れたと思ってもいつも失い続けたのだった、

なんという拙い過ちをわたしの心は犯したのだろう

これまでになかったほどに祝福されていたと思い込んでいたのに

この狂おしい発熱のいたずらによって

わたしの目はこんなにも眼窩から飛び出してしまったのだろう、

おお!悪行のお陰で 今わたしは真実を見出した

より良いものも悪いものによってさらに良くなり

壊れた愛も 新たに作られることによって

最初よりずっと美しくなり、もっと強く偉大なものになるということを、

そのようにしてわたしは様々な試練の後に満足すべきところへ立ち戻り

遣ってしまった分の三倍もの利得を悪行のお陰で得たのだった。

 

 

 

Sonnet CXIX

 

        WShakespeare

 

What potions have I drunk of Siren tears,

Distilled from limbecks foul as hell within,

Applying fears to hopes, and hopes to fears,

Still losing when I saw myself to win!

What wretched errors hath my heart committed,

Whilst it hath thought itself so blessed never!

How have mine eyes out of their spheres been fitted,

In the distraction of this madding fever!

O benefit of ill! now I find true

That better is by evil still made better;

And ruined love, when it is built anew,

Grows fairer than at first, more strong, far greater.

   So I return rebuked to my content,

   And gain by ills thrice more than I have spent.

シェークスピア ソネット 118

 

ソネット 118

 

        W. シェークスピア

 

わたしたちの食欲をさらに旺盛にするために

わたしたちがわたしたちの味覚を強い薬で刺激するように

将来罹るかもしれない病気を予防するために

わたしたちが今病気になることで将来吐き気を催さないようにするように、

わたしはあなたの決して過剰ではない甘さに満たされていた一方

苦い味付けの料理にも食指を伸ばしました

そしてあなたに愛される幸せに飽きてしまって 本当にそれが必要になる前に

薬によって気分が悪くなることの都合のよさに気づいたのでした、

このように愛の打算は まだ現実のものではない苦しみを防止しようとして

疑いようもない過ちを犯したのでした

そして優しさに恵まれ過ぎているのでかえって病気によって癒されるであろう

健康な状態に一連の薬を与えたのでした、

だがわたしはそのことから そんなにもあなたに飽きてしまった者に

薬物が毒として作用するという教訓が真実であると学び知ったのです。

 

 

 

Sonnet CXVIII

 

        W. Shakespeare

 

Like as, to make our appetites more keen,

With eager compounds we our palate urge;

As, to prevent our maladies unseen,

We sicken to shun sickness when we purge;

Even so, being full of your ne'er-cloying sweetness,

To bitter sauces did I frame my feeding;

And, sick of welfare, found a kind of meetness

To be diseased, ere that there was true needing.

Thus policy in love, to anticipate

The ills that were not, grew to faults assured,

And brought to medicine a healthful state

Which, rank of goodness, would by ill be cured;

   But thence I learn and find the lesson true,

   Drugs poison him that so fell sick of you.

田中眞由美詩集『しろい風の中で』

田中眞由美詩集『しろい風の中で』。なんという寂しげな心境だろう。<そこ>も<そのひと>もあいまいで、しろい風がくりかえされるしろい日をさらっていく。< そのひと>の語った言葉やしぐさが時や場所を超えて蘇るとき、だれにも<その時>が来ることを思わざるを得ない。みないなくなるんだねと。

シェークスピア ソネット 117

 

ソネット 117

 

                                       W. シェークスピア

 

こんなふうにわたしを責めてもいいですよ、すべてを蔑ろにしたと

あなたの素晴らしい恩恵に報いるべきであったのに

日々絆によってわたしが結びつけられるべき

あなたのこの上なく貴い愛を求めることを忘れてしまったと、

わたしが見知らぬ輩としばしば共に過ごして

あなたが高い対価を支払って手に入れた権利を行使する暇を与えなかったと、

わたしが見境なしにあらゆる風に向かって帆を揚げて

わたしをはるかあなたの視界の届かないところへ運び去ってしまったと、

わたしの故意と過失の仕業をいずれも書き留め

明白な証拠に加えて推測事項もかき集めればいいでしょう

あなたがわたしを見て眉を顰めるのはいいですが

はっきりとした憎しみの目で見ることはやめてください、

なぜなら わたしはわたしの訴状の中で あなたの愛が

永遠で高潔であることを証明しようと懸命の努力を傾けたのですから。

 

 

 

Sonnet CXVII

 

         W. Shakespeare

 

Accuse me thus: that I have scanted all,

Wherein I should your great deserts repay,

Forgot upon your dearest love to call,

Whereto all bonds do tie me day by day;

That I have frequent been with unknown minds,

And given to time your own dear-purchased right;

That I have hoisted sail to all the winds

Which should transport me farthest from your sight.

Book both my wilfulness and errors down,

And on just proof surmise accumulate;

Bring me within the level of your frown,

But shoot not at me in your wakened hate;

   Since my appeal says I did strive to prove

   The constancy and virtue of your love.

新詩集『時間論』の出版について(お知らせ)

【お知らせ】
 本日、わが13冊目の詩集『時間論』をKindle版で出版いたしましたのでお知らせいたします。詩集でははじめての電子書籍ですので是非ダウンロードのうえお読み下さいますようお願いいたします。
「時間」は身近なようですが意外と正体が不明です。わたしの新詩集『時間論』は、そのへんの時間の謎に迫った異色の詩集です。理屈っぽいようですが、だれもが疑問に思うようなことを丁寧に書き留めていますので、どうぞお気軽に読んでみて下さい。

 

Amazon.co.jp: 時間論 南原充士全集 eBook: 南原充士: Kindleストア

シェークスピア ソネット 116

 

ソネット 116

 

                W.シェークスピア

 

心から愛し合う者同士の婚姻を妨げるものがあるなどということを

わたしは決して認めない、なにか事情の変化で変わるような愛は

あるいは心変わりする相手につられて変わってしまうような愛は

本当の愛ではない、

いや!本当の愛は、嵐に晒されても決して揺さぶられることのない

永遠に固定された標識なのだ

それは彷徨える船にとって

水平線からの高度は測定できるがその価値は未知の星のようなものだ、

愛は時の道化役ではない、ただし薔薇色の唇や頬は

時の湾曲した大鎌の餌食となるのを免れないにしても

愛は、時の束の間の時間や週の間に変わることはなく

生を終えるときまで守り通されるものだ、

もしこのことが誤りであってそれがわたしに示されたなら

わたしは決してなにものも書いたりしなかったし、だれも愛し合ったりすることはなかっただろう。

 

 

Sonnet CXVI

 

 

      W. Shakespeare

 

Let me not to the marriage of true minds

Admit impediments. Love is not love

Which alters when it alteration finds,

Or bends with the remover to remove:

O, no! it is an ever-fixed mark,

That looks on tempests and is never shaken;

It is the star to every wandering bark,

Whose worth's unknown, although his height be taken.

Love's not Time's fool, though rosy lips and cheeks

Within his bending sickle's compass come;

Love alters not with his brief hours and weeks,

But bears it out even to the edge of doom.

     If this be error and upon me proved,

     I never writ, nor no man ever loved.