南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

大家正志小説集『海辺のくらし』

 

大家正志著、小説集『海辺のくらし』について

 

『海辺のくらし』

海辺の納屋をジイさんから借りて住んでいるぼくが、たまたま夜仕事帰りに、近くの畑に倒れている女を見つけて自分の納屋まで連れてくる。女はウェットスーツを着たままでいる。言葉も話さない謎めいた女だ。あるときぼくが自転車で崖から落ちて怪我をしたとき女が顔に触れると痛みが引いた。また、ある時女がオートバイの男6人に囲まれているのでぼくが駆け付けると男たちが襲ってきて痛めつけられた。そのとき女が金属音のような叫びを上げると脳の中が激しく痛んで気を失った。ぼくは助かったが、どうやら6人の男たちは死んでしまったらしい。女はいつまでいるのかわからない。

―――正体不明の女を拾ってしまったぼくの戸惑いがよく書けている。女が超能力の持ち主なのもおもしろい。女好きのジイさんの軽口も楽しめる。

 

『穴あるいは手品師』

1.ぼくは32歳の時に30歳の悦子と付き合っていた。銀行員の彼女の母はぼくが安定した仕事に付けば悦子との結婚を認めると言っていた。

2.65歳になったぼくに倉庫番の仕事を世話してくれたのはNさんだった。処分場の倉庫には穴がつながっていてトラックで運び込まれた荷物をどんどん投げ込んでいく。Nさんは詩誌の編集発行人でぼくはそこに参加している。ぼくには女房がいる。

―――ストーリーは、上の異なった二つの時期の話が交互に語られる構成になっているところがおもしろい。

また、悦子との付き合いの中で経験した老手品師にかかわるエピソードが秀逸である。何でも消せるという手品師に見物人がけしかけて手品師自身が消えてしまったのである。その意外な出来事が小説の幅を広げていい味を出している。

 

『洞調律』

詩人の山本さんが亡くなってお通夜に出かけたほくは知り合いの詩人戸田さんと出会って飲みに行く。そこに詩人の片瀬さんも来ていた。その後小説を書いている沢蟹礼子が現れた。詩や小説の話をしていると、急に人の声が聞こえなくなった。最近よく起こる現象だったが。ぼくはひとり店を出て喫茶店で休憩をとった。そこには3人の女子高校生がいて、そのひとりが下着を買ってくれと言った。そのとき高校の物理の教師高梨が指導の役割で入ってきたので3人は出て行った。高梨君が戻ってきてぼくと詩の話をいろいろした。高梨君もぼくの編集発行している詩誌の参加者なのである。喫茶店を出て外を歩きながら高梨君は沢蟹礼子と結婚することを告げた。その後、二人で飲み屋に行って皿回しの芸ができる店主にぼったくられそうになって店を出た。なぜか花火が上がっていた。そのときぼくは見知らぬ老人に声をかけられて、昔の彼女まーちゃんの店に行くがさっぱり覚えがないので、店を後にする。すると高梨君に声をかけられ、さらに飯塚君にも声をかけられ、3人で焼き鳥屋に入った。飯塚君も詩の仲間なので、三人でいろいろ詩の話をした。その夜ぼくはどんなふうに家に帰ってきたか記憶はなかった。朝の光の中で伸びをしようとして手に触れたのは、あの下着だった。

―――詩誌の参加者のさまざまな人間模様や詩についての突っ込んだやりとりがおもしろい。また、知り合いの詩人のお通夜の出来事を巧みに描いている。