南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

ギドン・クレーメル

 昨夜、東京オペラシティで開催されたギドンクレーメルのコンサートに行った。
生で聴くのは3度目だと思う。

 ぼくがいま一番好きなバイオリニストだ。

 千変万化の音色におどろく。
 超絶技巧に驚く。
 少々の不協和音など気にしない。
 骨太の演奏。
 それでいて、抒情性をきっちり歌い上げている。
 選曲も古典から現代ものまで多彩。新曲に意欲的に取り組む。

 そのクレーメルが、故郷ラトビアの若き音楽家たちと結成したのが、
「クレメラータ・バルティカ」だ。20人あまりの若い男女で構成される楽団。

 今回、クレーメル率いるこの楽団のコンサートだった。

 はじめは、マーラー交響曲10番からアダージョを編曲したもの。
 マーラーの抒情性が胸を揺さぶる。自然を感じる。森や海やとりわけ、波を。
 さすがにいい選曲といい演奏だ。

 次は、ショスタコービッチのバイオリンソナタ。楽団用に編曲。
 よくもわるくも現代音楽の典型みたいな曲。テクニックを堪能したが、
曲はいまいち。

 三番目は、カンチェリがクレーメルのために作曲したという
 「リトル・ダネリアーダ」。
 人間の声で「うーぅ」というようなため息がもれる。それが契機となって
 弦楽器とピアノや打楽器との掛け合いが展開される。都会の現代人の生活感覚を
 やや風刺をきかせて描いたような印象。現代音楽的ながら、おもしろさを感じさせた。

 4番目は、クレーメル得意のピアソラ
 ブエノスアイレスの四季。
 クレーメルピアソラの曲を何枚もCDに録音しているぐらい、こだわっているようだ。
 コンサートでもよくとりあげる。
 それだけに、哀愁に満ちたブエノスアイレスの四季が現代的な感覚で描かれる。熟練の境地だ。

 アンコールでは、ガーシュイングレン・ミラーの曲。
 ジャズなども積極的にとりあげる柔軟さがクレーメルの魅力だ。

 全体として、クレーメルファンのぼくを満足させてくれたコンサートだったが、
欲を言えば、一曲ぐらい古典派やロマン派の曲を聴いてみたかった。
 それは次の機会の楽しみとしておこう!