南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

安倍前総理辞任のこと(価Ⅱ=11)

 多くの反響があった安倍前総理の辞任劇も福田新総理の誕生とともに少しずつ沈静化したようだ。

 突然の辞任について、整理しておきたい。

 臨時国会冒頭で所信表明演説をした直後に辞任したタイミングの悪さについては異論の余地はないだろう。
 では、参議院選挙で大敗を喫したときに続投を宣言したことについてはどうか?
 「美しい日本」を標榜して、自らの政治理念を実行に移そうとする意欲の表れと受け止めれば、あながち責めるのもいかがなものか?

 小泉政権を支えた後、その後継者として、また父の成し遂げられなかった総理としての職を全うしたいという思いは強いものがあっただろう。

 安倍さんの政治家としての資質を問題にして、そもそも総理に選んだのが間違いだったという意見もあった。果たしてそうだろうか?

 閣僚の不祥事が続出したのは不運だったが、安倍さんの致命的な欠陥ではなかったと思われる。

 安倍さんの政策はどう評価すべきだろうか?小泉さんの政策を継承しつつ、靖国問題などでは修正も加えていた。基本的には、正しい方向に向かっていたと言えないだろうか?

どうやら、突然の辞任の理由は、健康状態の悪化にあったようだ。

健康状態をコントロールできなかったのが責任重大といえばそうだろう。
だが、全力で総理という激務をこなす中で損なった健康まで責めるべきではないと思う。

人間には事故や病気がつきものだ。暗殺されるおそれすらある。

安倍さんを責める前に、システムを整備するべきだろう。

総理が健康状態を悪くして辞任せざるをえなくなった場合にどう対応するかをきちんと決めておくべきではないだろうか?

生身の人間が総理大臣をやっている以上、不測の事態への備えが不可欠だと思う。

さいわい福田総理の誕生により、わが国の政治も新たな軌道を走り始めた。

民主党との関係はきびしいものがあるようだが、福田流の自然体でいまのところまずまずうまく政権を運営していっているように見える。

 安倍さんも政治家を引退したわけではない。
 なにかにつけて、批判されることは避けられないだろうが、これまでの献身的な貢献をゼロと評価して、「政権を投げ出した無責任総理」みたいな歴史的位置付けをするのはあまりに酷だと思える。

 安倍さんの無念さに思いを致し、「ごくろうさまでした!しばらく休んでまた元気になって政治家として活躍してください!」というのが、心ある国民のとるべき態度だと僕は思う。