南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『 老いることは悪いことか? 』=(価Ⅱ=45)

 『 老いることは悪いことか? 』   

                           (価値観の研究第二部 その45)


       古ゆ 人の言いくる 老人の 変若つといふ水そ 名に負ふ滝の瀬
                 
                              万葉集 寒6-1034


1. 古来、不老長寿の薬が求められ、若返りの秘術が追究され、アンチエージングの方策が探られてきた。

 若さや青春は美しいが、それを過ぎれば取り戻すことはできず、衰えた体力や容色を嘆くことが繰り返されてきた。

 それでは、「老いること」はデメリット、マイナス面だけをもっているのだろうか?

 たしかに、年をとれば、体力は落ち、視力は衰え、聴力も低下し、記憶力はおどろくほど悪くなる。運動能力も落ち、瞬発力、持久力、柔軟性などどれをとってもがたがた低下する。脳や神経系統、血管、臓器、筋肉など、すべてのからだの部位が老化し、衰える。

 皺やしみがふえ腰が曲がり、のろくさと動くようになる。話も通じにくくなる。食事も好きなだけ食べられなくなる。

 ああ、なんという運命、悲しい定めだろう。ひとはだれも、死に向かって枯れていくしかないのか?

2.おそらく、「老い」のプラス面を挙げるのは難しいだろう。しかし、高齢化社会において、「老い」の価値をしっかりと考察しておくことは意味があることだと思う。

 思いつくままに挙げれば、

① 経験が豊富になること。
② 知恵がつくこと。
③ 知り合いがふえること。
④ 洞察力が身につくこと、
⑤ 若者を指導できること。
⑥ 過去のことを経験者として語れること。
⑦ (名声や財産や地位や人脈があるひとについてだが)影響力があること。

 などがあるだろう。

 やはり、アグレッシブに活躍できる世代よりは、魅力は劣るなあ、というのが冷静に考えてみた結論だが、老人は謙虚に相対的価値の低下を自覚し、受け入れ、身の程に合った生活をすることが必要なのだろう。全盛期の栄光にこだわっていると、他者にきらわれるだけだ。

3.老いはだれも避けられないが、老いの持つ悲しい運命を淡々と受け入れ、遠慮気味に生きていくというのが、ひとつの知恵かもしれないと思う。

 「老い」は重大なテーマだが、明確に「老いの価値観」を提示するのは難しい。過去においても、現在においても、ひょっとすると未来においても、人類は「老い」に苦しみ続けなければならないかもしれない。中には、楽観的な老人もいるだろう。くよくよせずに老後をできるだけ楽しく生きている老人を見習うのも一法かもしれない。

 わたしも、還暦を迎えたところ。老いはまさに自分にとっても直面しつつある大問題である。