南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

言葉と行動(価Ⅱ=42)

 『 言葉と行動 』             価値観の研究第二部 その42 (価Ⅱ=42)

 言葉と行動は必ずしも一致しない。それには、さまざまな理由があるだろう。政治的、経済的、社交的、個人的、故意、過失等々。
 
 人間は、いろいろな場面で、言葉を求められる。沈黙は金だが、言葉がなくては、社会は成り立たない。銀でも銅でも鉄でもやむをえない。

 言葉は、人間社会の不可欠の多目的手段である。

 よって、古今東西、言葉は生まれ、作られ、変化し、洗練され、ときには乱れ、消滅する。紆余曲折はあったにせよ、雄弁術やレトリックや文章能力は常に磨かれてきた。

 言葉は、ひとの知情意に訴える。理性と感性に訴える。こころを揺さぶる。

 最近、オバマ大統領の就任演説が話題になっているが、それを見ると、言葉がどのように選ばれるかがよくわかる。建前と本音が見て取れる。だれでもそうしているのだが、オバマの場合は全世界の注目を浴びるので、特に念入りに準備されたと思われる。

 言葉は、求められる。時と場合によって、求められる言葉は異なる。オバマが本当に考え、思い、したいと思っていることと、かれの演説には違いがあるはずだが、だれもそんなことは問わない。

 金融安定化対策、景気回復や雇用対策、安全保障、軍事戦略、世界平和やイスラム世界との対話、環境対策など、望ましい言葉が連ねられている。

 まず、その表現の仕方と言及されなかった言葉を総合して、公式の解釈が試みられる。私的な領域に踏み込むことはその次の段階だが、大統領にとって、純粋な私的領域はきわめて限定的だろう。

 演説の字面を仔細に見てみれば、ネガとして見えているものがある。軍事同盟、人種差別問題、宗教問題、民族問題、政治体制の違い、国家間の友好・敵対関係、経済問題、金融問題、、貿易問題、人権問題、領土問題、伝統文化など多くのタブーや利害関係を内包する問題について、なにをコメントしなかったかを点検するという作業を通してある程度明らかになるだろう。

 人間社会では言葉が大きな力を持つ。しかし、その使い方には、複雑な暗黙のルールがあることを忘れてはならない。

 そのうえで、行動と言葉を常に比較し、レビューをしていく必要がある。正義や平和を標榜することだけでは本質的な解決にはならない。

 戦略を具体化する戦術が必要だ。そして、常に、公式の言葉の背後にある、「本音」を見定め、自分なりの「非公開の言葉」によって、現実を見定め、理解し、自分の言葉を見出していき、それに基づいた行動をするべきである。

 そのようなステップをくりかえすというダイナミズムの上に、可能な限り、最善の選択がなされると思う。

 このステップは個人レベルでも集団レベルでもさらには国家や国際関係においても共通のものがあると思う。

 「建前と本音」というのは言い古されたことながら、あらためてその重要性を認識すべきと思う。