南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

詩集・詩誌・小説等評

近澤有孝詩集『とてもいいもの』

近澤有孝詩集『とてもいいもの』。持病をかかえての日常生活は落ち込むことも多いと思うが、様々な出来事や経験を詩に転化することで救いや希望を見出し、更に発展させて読者を喜ばせる物語世界をプレゼントする内容となっている。確かな目と言葉と他者への…

橘しのぶ詩集『道草』

橘しのぶ詩集『道草』。懐かしい記憶や悲しい思い出が夢想や懐旧を通じて深く心を打つすこし怖い物語に変容する。現実が幻想へ変わることで深い悲しみや辛い記憶を受け止めることができる。豊かな想像力と言葉の表現力が詩と死の繋がりを強く意識させるこの…

中川望詩集『まっすぐな霧の道』

中川望詩集『まっすぐな霧の道』。通勤電車で通う日々にふと浮かんでくるイメージがユニークな詩になる。一旦領有が閣議決定された孤島の実在が後に否定された話などさまざまな知識や想像力が駆使されて意外性に富んだストーリーが展開される。亡母がくれた…

森田直詩集『乾かない』

森田直詩集『乾かない』。日常生活の隙間に入り込む違和感や疎外感や脱力感がふとした拍子に詩の言葉として生まれてくる。人の心の奥深さが意外性に富んだ様々なイメージややるせなさやユーモアとして魅力あふれる詩に結実する。さりげなさの中にぐっと引き…

小網恵子詩集『不可解な帽子』

小網恵子詩集『不可解な帽子』。日常の生活の情景がきわめて緻密に抒情的に描かれる。花や自然を愛し家族や友達を大切にしながらも、光は必ず影を伴うことを知っていて、座席に置いてある帽子にも不可解なものを感じたり、空を見上げれば漠然とした不安を感…

うめのしとみ詩集『どきんどきん』

うめのしとみ詩集『どきんどきん』。ひとが生きることを死ぬこととのつながりとしてとらえて、驚くべき冷静な観察眼とリアルな描写とファンタジックでユーモラスな表現が読者の心を強くとらえる。たとえば「A総合病院地下談話室」の生者と死者の対比はあまり…

たなかあきみつ詩集『境目、越境』

たなかあきみつ詩集『境目、越境』。おそるべき膨大な語彙が自由自在に駆使される。文学、絵画、音楽、写真など広範な芸術家や芸術作品の引用と日常接するニュースや事件の融合が、高踏派と通俗性を独特の詩の世界に結実させている。自分の急病さえ客観的に…

佐野豊詩集『夢にも思わなかった』

佐野豊詩集『夢にも思わなかった』。平易な言葉で素直に自分の気持ちを表現しながら着実に感動の核心を掴んでいる。例えば冒頭の「暖のとりかた」では愛するひととひとつのふとんにもぐる様子が実にほほえましく描かれている。詩集名は、父が所有したレコー…

高橋馨詩集『蔓とイグアナ』

高橋馨詩集『蔓とイグアナ』。第一部は、詩と写真の組み合わせ、第二部は、自由線画集、第三部はエッセイ『私のダロウェー夫人』。幅広い芸術への造詣や豊富な人生経験を踏まえた、鋭い社会洞察や風刺やエスプリやユーモアが、著者の自由で闊達な精神のあり…

『詩ってなんだろう』(谷川俊太郎)

『詩ってなんだろう』の文庫本を著者の谷川俊太郎さんから送っていただいた。実は、すでに文庫本になる前のこの本を持っていて読んだことがあったのですが。あらためて読んでみて、「子供向けにわかりやすくいろいろなタイプの詩が収録されていますが、大人…

山田兼士さんによる詩集『レジリエンス』評

山田兼士(Facebook)2022.8.29 南原充士『レジリエンス』(思潮社) 多岐にわたるモチーフを様々なスタイルで構築した40篇。シリアスに世界の謎に向き合いつつ、時にユーモラスに、時にアイロニカルに突き放すストイックさは貴重な個性と思われ…

冨上芳秀『ジジイの覗き眼鏡』

冨上芳秀『ジジイの覗き眼鏡』。「詩的現代」に11回にわたって掲載した詩集評等を収録した本書は、単なる書評集と言うより、著者の詩に対する思いやさまざまな出会いなどのエピソードをたっぷりと盛り込んだ読み物風の面白さに満ちている。死を強く意識し…

小島きみ子詩集『空と大地の眼で織られた布(テキスト)-愛と希望のmethod-』

小島きみ子詩集『空と大地の眼で織られた布(テキスト)-愛と希望のmethod-』。詩の求道者的な真摯な姿勢だけではなく個人的な経験や思いと様々な芸術作品を織り交ぜることで新たな物語詩を生み出した著者の超絶技巧が光る。生と死のしがらみを超えて愛と希…

たなかあきみつ詩集『アンフォルム群プラス』

たなかあきみつ詩集『アンフォルム群プラス』。ロシア語をはじめとする外国語を含む広範な語彙、書物、絵画、音楽、写真、オブジェ、記事、映画やテレビドラマ、様々なイメージと引用と言葉の氾濫、複雑で重層的で凝縮した詩篇から零れるのはくすっとした笑…

野間明子詩集『襤褸』

野間明子詩集『襤褸』。現実と空想、自問自答、生死等アンビバレントな感覚、突き詰める意識、高度な表現技巧から生まれる詩篇は、ある種メタフィジカルな世界に入り込む。例えば、「深紅や純白の花も覚めれば襤褸、明日花になるわたし」の色彩や音色や身体…

八重洋一郎詩集『転変・全方位クライシス』

八重洋一郎詩集『転変・全方位クライシス』。広範な知識と経験と膨大な語彙を駆使して今世界が置かれた危機的状況を強烈なインパクトを持った詩篇として描き出し警鐘を鳴らし告発している。沖縄の現状、琉球の歴史、ムンク、カフカ、デカルト、ジョイス、狂…

清水鱗造詩集『ころころころ』ほか

清水鱗造幻想小説『トラセミ・バッジ』。最近相次いで出版している幻想小説の一篇。溢れ出るイメージ、新造語、物語、登場人物、架空の世界。トラセミの「虫嵐」が来ている中をぼくが低速走行のバスで小旅行に出かけて、そこで出会ったひとびとや訪れた場所…

岩田英哉『詩文楽』(南原充士詩集『思い出せない日の翌日』評)

詩文楽 - Shibunraku: 南原充士の詩集『思い出せない日の翌日』を読む

大家正志小説集『海辺のくらし』

大家正志著、小説集『海辺のくらし』について 『海辺のくらし』 海辺の納屋をジイさんから借りて住んでいるぼくが、たまたま夜仕事帰りに、近くの畑に倒れている女を見つけて自分の納屋まで連れてくる。女はウェットスーツを着たままでいる。言葉も話さない…

高田昭子詩集『冬の夕焼け』

高田昭子詩集『冬の夕焼け』。人の生死を静かに見つめる目は現実と夢が入り混じった情景を見る。幼い時大陸から命からがら引き上げた経験が重しとなって著者の心に戦争の理不尽さを刻み付けた。冬の夕焼けにおける「豊かな死の収穫期まで/みなかなしく生き…

山田兼士詩集『ヒル・トップ・ホスピタル』

山田兼士詩集『ヒル・トップ・ホスピタル』。まさかの入院治療。一か月ほどの間に書いた16篇の詩。「ささやかな記録としてたいせつな記憶として書かざるを得なかった人生詩」。治療が成功して「ムンドゥス・ケンジ―ニア」が蘇り再び多彩な活動でわたしたち…

瀬崎祐詩集『水分れ、そして水隠れ』

瀬崎祐詩集『水分れ、そして水隠れ』。「虚の言葉と現の言葉が、水彩絵の具のように重なっていく」〈あとがき)。眼球と風景、潤いと乾き、光と暗さ、疎水や湖、旅館や湯等のキーワードが現実と幻想がないまぜになった不思議な物語を紡いでいき、揺れ動く感…

日原正彦詩集『はやく来てー子どもの詩ー』

日原正彦詩集『はやく来てー子どもの詩ー』。大人が子どもの目を借りて書いた、楽しくて面白くて辛くて怖い、29篇。若い頃から今日まで溢れる詩心を存分に発揮してきた著者の創作の秘密を垣間見るような純粋な目と心の動きが魅力的だ。何歳になっても詩を…

葉山美玖詩集『春の箱庭』

葉山美玖詩集『春の箱庭』。ホームにいる父のこと、心を病んでいた母のこと、試練に満ちた自分のことなどがありのままにだが確実な表現技巧により述べられる。最後に、希望に向けて旅立とうとする姿勢が見えるのが救いだ。「この小さな私の箱庭のような街か…

岸本嘉名男詩集(新・日本現代詩文庫)

『岸本嘉名男詩集』(新・日本現代詩文庫)。地元せっつへの愛着をベースに書かれたさまざまなスタイルの詩。一貫しているのは誠実な人柄が観察し経験した多くの事柄だ。英語に訳した詩も興味深い。萩原朔太郎の研究書もあり、幅広い活動は着実な成果を上げ…

細田傳造詩集『まーめんじ』

細田傳造詩集『まーめんじ』。子供時代のこと、韓国のこと、孫のこと、筑波山のこと、パリのこと、なにを書いても巧みな話術に引き込まれてしまう。下世話な事や俗っぽい事が多くてもユーモアとたしかな人生への洞察力が読者を上質の詩の世界に連れて行って…

望月遊馬詩集『燃える庭、こわばる川』

望月遊馬詩集『燃える庭、こわばる川』。広島の地形をなぞり伝承に分け入り自らの物語を形作ってゆく。切なくも悲しく美しい時空を呼び覚ますために、自らの思い出は伝承と一体化し新たな神話がポリフォニックに無限旋律の波のように語られる。被爆者への鎮…

吉田隶平詩集『在ったという不思議』」

吉田隶平詩集『在ったという不思議』。まだ七〇代の著者だが、なぜか死を強く意識しているようだ。人生の深い洞察としみじみとした思いが胸に迫るような巧みな詩篇が並ぶ。「理路整然と語っていることには/嘘が入ってくる/ぽつりと呟いたことを/繋ぎ合わ…

山田兼士詩集『冥府の朝』

山田兼士詩集『冥府の朝』。突然の発熱で入院。意識を失った中での2か月の治療と5か月のリハビリを経て退院。コロナの中での元気回復。冥府からこの世に蘇った自らの経験を二年にわたり丁寧に振り返り叙述している。生死という重大なテーマが個人の体験を…

冨上芳秀詩集『言葉遊びの猟場』

冨上芳秀詩集『言葉遊びの猟場』。脳髄の片隅に住まわせている一人の読者が「あなたは本当に詩を書きましたか」と問いかける。伝えないことで伝える「言葉遊び」の実験は、そんな読者への答えとして誰もやったことのない方法を模索した多様な詩群として結実…