南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

武西良和詩集『メモの重し』

武西良和詩集『メモの重し』。著者が故郷和歌山の高畑で農業を営む四季折々の畑の様子や過疎化している近隣のひとびとの暮らしが生き生きと描かれる。詩を生み出す力量は並のレベルではない。「知り合いが亡くなった知らせを受けて記したメモに昨日抜いた細…

冨上芳秀『スベリヒユの冷たい夏』

冨上芳秀詩集『スベリヒユの冷たい夏』。言葉遊びのかげに人間への深い洞察がある。「死への恐怖を回避するものとして詩があり、透きとおった白い肌を持つ美しい女(死)と夜ごと激しくセックスすることで『詩』を書くことができた」。エロティシズムは悲し…

田中眞由美詩集『コピー用紙がめくれるので』

田中眞由美詩集『コピー用紙がめくれるので』。新型コロナウイルスが多くの命を奪い人の流れを止めた。そんな中で詩人にも非日常を生きる中でたくさんの出会いと別れが訪れた。ともすれば暗いことばかり起きる身の回りだがさらに地球環境の破壊や戦争が輪を…

尾久守侑詩集『Uncovered Therapy』

尾久守侑詩集『Uncovered Therapy』。不条理劇のような情景と登場人物と台詞が斬新な手法で展開される。「いつかいなくなる日のための距離の治療(Uncovered Therapy)」としての詩。精神科医でもある詩人ならではの視点が過去に類例のないポエジーを生み出…

詩「関東大震災」

詩「関東大震災」

吉田博哉「橋のなまえ」

吉田博哉「橋のなまえ」(詩誌「Culvert No.2」)。「浴渡橋、久米路の橋、来るか橋」など橋に係る短い詩が七篇。「橋の工夫」の橋にまつわる奇妙な思い出や夫婦の微妙な感情が風変わりな橋の名前に託して巧みに描かれる。七つの悪夢のような奇談がややホラー…

吉田義昭詩集『風景病』

吉田義昭詩集『風景病』。高齢化社会を生きる一人の高齢者として現在の心境を率直に述べている。幼いころから現在までの自分の人生を振り返り問い直す。最愛の妻を亡くし親しい友を失って感じる生のはかなさ。科学者や臨床心理士や歌手など多くの顔を持つ著…

大工美与詩集『これからは』

大工美与詩集『これからは』。高齢化社会を生きる誰にとっても共感を感じる詩集。自身の心臓病を始め父母や家族、友人の闘病や死の様子などが目に浮かぶように描かれている。高齢になっても「丁寧に 丁寧に生きることで/何かが生まれて来る予感がするのです…

今井好子詩集『朝の裏側へ』

今井好子詩集『朝の裏側へ』。様々な日常生活の記憶が無駄のない言葉で的確に描かれる。深い思いがあるのに言葉は抑制が効いていて叫ぶことがない。詩篇もまた整っていて女性らしい美学を貫いている。「地図」に「はり残した/いくつかの断片をのせて/朝の裏…

犬伏カイ詩集『ぼくのブッダは祈らない』

犬伏カイ詩集『ぼくのブッダは祈らない』。先祖調べから詩の世界が開かれ、それらは壮大な宇宙的・地史的・人類史的な広がりを持つ時空へと発展していった。叙景からフィクションまで現実を見つめる冷徹な目と想像力溢れる神話的物語まで、作者の思いが強い…

『目礼』(短歌系)(2023.7~8)

『目礼』(短歌系)(2023.7~8) 仮初の 目礼であれ 電流の かすかな励起 促すよすが 不機嫌の 飽和の街に 居づらさも 息苦しくて こすれる心 一瞬も 消えぬ体を 消え去ると 感じる心 まだらにゆらぐ じーじーの 鳴き声弱い なにゆえに 今年の蝉の 油が…

日原正彦詩集『永遠の立ち話』

日原正彦詩集『永遠の立ち話』。日常の情景や出来事や思い出などがきっかけとなってさまざまなイメージや連想が働き時には言葉遊びやオノマトペに発展する。見る事聞く事問いかけや自問自答のような発語。「妻・娘・私」の章はさりげない筆致の中に悲しい過…

俳句『半夏生』

半夏生我流にも 手応えあれば 夏に沿ういっぱしの 夏の装い 風来坊地図もなく 迷い続ける 在の夏せせらぎに しばし涼とる 奥平敏感を 色に染め分け 夏の川遠雷に 読みふけりしは 夏の夜夏の午後 うつらうつらの 綿入子お互いに シカとしあって 夏ゆらり生体…

詩集『個体から類へ涙液をひじませるfocusのずらし方・ほか』

詩集「個体から類へ涙液をにじませるfocusのずらし方・ほか」 : 南原充士の『きままな詩歌と小説の森』 (exblog.jp)

山本萌著『猫(ラン)と握手』

山本萌著『猫(ラン)と握手』。12年間一緒に過ごした愛猫ランとの思い出を生き生きと描いた心温まる手記。保護センターからやってきた子猫は病気や数々の失敗を克服して馥郁たる猫に育った。その愛するランを失った悲しみは痛切。「忘れないよ、永遠に」…

近澤有孝詩集『とてもいいもの』

近澤有孝詩集『とてもいいもの』。持病をかかえての日常生活は落ち込むことも多いと思うが、様々な出来事や経験を詩に転化することで救いや希望を見出し、更に発展させて読者を喜ばせる物語世界をプレゼントする内容となっている。確かな目と言葉と他者への…

旧街道

詩集『エスの海』(昭和58年刊)より抜粋 第三詩集『エスの海』も私家版につき、ほとんどご覧になった方はいないと思います。 わずか10篇を収めた詩集ですが当時としては新しい書き方にも挑戦しています。 ======================…

孤愁

Loneliness comes to me suddenly, I hesitate to go to bed soon, How do I do with the solitude? No one can help me get out of myself. All I can do is to wait until I become sleepy. 孤愁 突然寂しさに襲われる すぐにベッドに行くことがためらわれ…

南原充士 プロフィール

南原充士プロフィール(2023.6) : 南原充士の『きままな詩歌と小説の森』 (exblog.jp)

南原充士 プロフィール

nambara14.exblog.jp/32905878/

橘しのぶ詩集『道草』

橘しのぶ詩集『道草』。懐かしい記憶や悲しい思い出が夢想や懐旧を通じて深く心を打つすこし怖い物語に変容する。現実が幻想へ変わることで深い悲しみや辛い記憶を受け止めることができる。豊かな想像力と言葉の表現力が詩と死の繋がりを強く意識させるこの…

中川望詩集『まっすぐな霧の道』

中川望詩集『まっすぐな霧の道』。通勤電車で通う日々にふと浮かんでくるイメージがユニークな詩になる。一旦領有が閣議決定された孤島の実在が後に否定された話などさまざまな知識や想像力が駆使されて意外性に富んだストーリーが展開される。亡母がくれた…

森田直詩集『乾かない』

森田直詩集『乾かない』。日常生活の隙間に入り込む違和感や疎外感や脱力感がふとした拍子に詩の言葉として生まれてくる。人の心の奥深さが意外性に富んだ様々なイメージややるせなさやユーモアとして魅力あふれる詩に結実する。さりげなさの中にぐっと引き…

小網恵子詩集『不可解な帽子』

小網恵子詩集『不可解な帽子』。日常の生活の情景がきわめて緻密に抒情的に描かれる。花や自然を愛し家族や友達を大切にしながらも、光は必ず影を伴うことを知っていて、座席に置いてある帽子にも不可解なものを感じたり、空を見上げれば漠然とした不安を感…

うめのしとみ詩集『どきんどきん』

うめのしとみ詩集『どきんどきん』。ひとが生きることを死ぬこととのつながりとしてとらえて、驚くべき冷静な観察眼とリアルな描写とファンタジックでユーモラスな表現が読者の心を強くとらえる。たとえば「A総合病院地下談話室」の生者と死者の対比はあまり…

たなかあきみつ詩集『境目、越境』

たなかあきみつ詩集『境目、越境』。おそるべき膨大な語彙が自由自在に駆使される。文学、絵画、音楽、写真など広範な芸術家や芸術作品の引用と日常接するニュースや事件の融合が、高踏派と通俗性を独特の詩の世界に結実させている。自分の急病さえ客観的に…

佐野豊詩集『夢にも思わなかった』

佐野豊詩集『夢にも思わなかった』。平易な言葉で素直に自分の気持ちを表現しながら着実に感動の核心を掴んでいる。例えば冒頭の「暖のとりかた」では愛するひととひとつのふとんにもぐる様子が実にほほえましく描かれている。詩集名は、父が所有したレコー…

詩「歌」

詩集『レジリエンス』からー冒頭詩篇ー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 歌 粗密な天体の網状のからまり 鋏で切れるものは何ですか ミルフィーユを食べると夢見がいいです 乾いた涙を福笑いに貼り付けます 迷子になった子供は夜中に地図のお化け…

詩誌『詩素』連載のエッセイについて

詩誌『詩素』にはエッセイを連載しています。 これまでのタイトルをご紹介します。 「『価値観と詩』について」(14号) 「想像力について」(13号) 「時間について」(12号) 「夏目漱石『草枕』のことなど」(11号) 「反骨精神について」(9号) 「…

南原充士詩集つれづれ(2023.5)

『 詩集つれづれ=問わず語り 』 2023年5月1日 1.南原充士詩集=わが既刊詩集16冊を振り返って これまでの詩集についてどんな思いで刊行したのか振り返ってみたい。 詩集『遡及2022』は、Kindle版で出版した3冊目の詩集である。新型コロナで…