南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2021-01-01から1年間の記事一覧

シェークスピア ソネット 115

ソネット 115 W. シェークスピア これまでにわたしが書いてきた詩行は偽りです わたしはこれ以上あなたを愛することはできませんと言ったことさえ、 当時のわたしの判断力では わたしのこれ以上ない愛の炎が 更に強まるなどと想像する理由など思い当たらなか…

『南原充士の作品』紹介

『南原充士の作品』 南原充士のプロフィール(2021.8) 1.小説 『エメラルドの海』 『恋は影法師』 『メコンの虹』 『白い幻想』 『血のカルナヴァル』 『カンダハルの星』 『喜望峰』(以上Kindle) 『転生』(BCCKS) 2.詩集 『散歩道』 『レク…

『春の夢』(俳句系)

『春の夢』 (俳句系) (2021年4月) 外よりも 内なる敵を 春散らせ 自滅気味 暗示のごとき 春の空 楽天に 振れる秤の 春うらら 自らを 納得させて 生きる春 歌うごと 調べ軽やか 春の川 自らを だまし励まし 春の風 地震来て 風雨も襲う 春に泣く 鬱…

シェークスピア ソネット 114

ソネット 114 W. シェークスピア あるいはわたしの心はあなたという王冠を戴いているので 王の疫病である追従を飲み干すということなのでしょうか? それともこう言ったほうがよいでしょうか?わたしの目は真実を述べており あなたへの愛がわたしの目にこの…

翼 子供たちが遊んでいるのを見る。 見守る大人を見る。 見知らぬ人々を見る。 木を見る。 空を見る。 夢を見る。 再び元のところを見るとだれもいない。 ほとんどは外からやってくる。 ちょっぴりの自分が 多くの素材によって 大きな翼を与えられる。 ゆっ…

シェークスピア ソネット 113

ソネット 113 W. シェークスピア わたしがあなたのもとを去ってからはわたしの眼は心にあります わたしが出かける時にわたしを支配するものが その機能を放棄して部分的な盲目となっています 見えているように見えても、実際にはよく見えていないのです、 な…

シェークスピア ソネット 112

ソネット 112 W. シェークスピア あなたの愛と憐みが わたしの額に刻印された低俗な噂の傷跡を癒すのです わたしを良いとか悪いとか言う声があっても気にしません あなたがわたしの悪を覆ってくれ良さを認めてくれるからです、 あなたはわたしのすべてです …

南原充士 未完詩集のご紹介

いままでいろいろな詩を書いてきましたが、さまざまな事情で詩集として発行することなく自分の手元で眠っている詩篇がいくつかあります。 それらの詩篇の中には、すでにどこかに発表したけれども詩集としては出版していないものとまったくどこにも発表したこ…

『春暖』(575系)(2021.3)

『春暖』(575系) (2021.3) 春暖の すこし狂わす 身と心 近景と 遠景ありて 春朧 春雷を 風神雷神 叩く撥 春雷に 人事を乱す 内の神 珍しく 背中の張るは 春の乱 漏れ来るは 春の日差しか 戸惑いか 自らの 中のひとへと 春よ来い 寝返りを 打つ…

『春朧』(57577系)

『春 朧』(2021.3)(57577系) 詫びるごと 遣る瀬無き世に 長らえて そっと巻き上ぐ 鎧戸の陰 狭量を 捨ててくつろぐ 素浪人 この世にあれば 花の香を嗅ぐ 頑固者 互いに睨み 軽蔑し 蛇蝎の如く 嫌い合う仲 悲しみは 倍になるとも 喜びは 倍々にな…

シェークスピア ソネット 111

ソネット 111 W.シェークスピア おお!わたしのためにあなたは運命の女神をたしなめてくれませんか? わたしを悪行に走らせた罪深い女神を 女神がわたしの生涯に与えたものは 俗世間の流儀で稼ぐ俗世間の実入りでしかなかったのでした、 それゆえわたしの名…

南原充士の略歴

南原充士 なんばら・じゅうし 男 昭和24年(1949)2月7日 茨城県常陸太田市で生まれ 日立市で育つ。 昭和47年東京大学法学部卒。 団塊の世代。 入学に際して熾烈な大学紛争を経験。 価値観の違いについて深く考える契機となる。昭和47年以降、行…

シェークスピア ソネット 110

ソネット 110 W. シェークスピア ああ!そのとおりです。わたしはあちこちで遊んでいました そして自分を世間の笑いものにしていました 自分の考えに角を突き刺し、大切なものを卑しめました 新しい愛情によって旧来の罪を重ねたのです、 わたしが真実さえも…

シェークスピア ソネット 109

ソネット 109 W. シェークスピア おお!わたしが不貞を働いたなどと言わないでください あなたが不在の間わたしの愛の炎が弱まったように見えたとしても わたしが自分自身を去ることはたやすくないでしょう あなたの胸にあるわたしの心を去るのと同様に、 そ…

72歳

昨日72歳になりました。 正直、複雑な心境ですね。 でもいろいろ思い煩ってもなにも解決しませんよね。 創作意欲が続く限り、詩歌、小説、評論、エッセイ、英詩和訳等を書き続けたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。 外出自粛の折からSNS等で…

詩「洗濯物」の英訳「Washing」

洗濯物 南原充士 強風が洗濯物を飛ばした 肌着はダリの絵のシャツように ストッキングは下半身だけのマネキンのように ハンカチは竿から外れた白旗のように めいめいの形に伸びたり縮んだりしながら あちこちへと飛んでいった あわてて近所をさがしてみたが …

洗濯物

洗濯物 強風が洗濯物を飛ばした 肌着はダリの絵のシャツように ストッキングは下半身だけのマネキンのように ハンカチは竿から外れた白旗のように めいめいの形に伸びたり縮んだりしながら あちこちへと飛んでいった あわてて近所をさがしてみたが どこへ行…

「不満」

不 満 南原充士 不満を感じ始めると増大する。 不満を言い始めるととめどなくなる。 不満は回りまわって自分に返ってくる。 不満は内部へ侵入して危害を加える。 不満はすっかり自分を乗っ取り 気が付けば 不満が自分を語らって 大威張りで往来を歩いている。

「カルテット第7号」山田兼士小詩集「疾中情景詩篇」

「カルテット第7号」。山田兼士小詩集「疾中情景詩篇」。突然の病で入院。退院して回復するまでの経験と思いが切々と語られる。重大な出来事を辛抱強いリハビリで克服する過程は他人事とは思えない切迫感とリアリティがある。「未知の 未明の 未踏の どこか…

アマンダ・ゴーマン

アマンダ・ゴーマンのこと 大統領就任式での、アマンダ・ゴーマンの詩「私たちが登る丘」の英文と訳文を読んでみた。 22歳とは思えない詩の高度なレトリックが駆使されている。比喩・象徴、強調、押韻、対比、反語、問いかけ、引用(聖書)、呼びかけ、メッ…

アマンダ・ゴーマンの詩「私たちが登る丘」

バイデン大統領の就任式で詩を読んで話題になったアマンダ・ゴーマン。22歳の才能豊かな詩人。ハーヴァード大学で社会学を専攻する学生。奴隷の子孫でシングルマザーに育てられ将来は大統領になることを夢みる少女というは、アマンダ自身のことを言ってい…

シェークスピア ソネット 108

ソネット 108 W. シェークスピア 頭の中にはインクで記され得るどんなものがあるのだろう? それはわたしの本当の心をあなたに示すことができていないのだが わたしの愛あるいはあなたの優れた美点を表す 新しい言葉や今記録すべきことがあるのだろうか? な…

豊原清明詩集『白い夏の死』

豊原清明詩集『白い夏の死』。キリスト教への信仰も生きることのさまざまな試練や虚無や怒りや病や罪の意識を解放することはない。日常の出来事に翻弄される自分自身を持て余しながらも現実を冷徹に観察して見えてきた社会の猥雑さや不可思議さを真率に書き…

シェークスピア ソネット 107

ソネット 107 W.シェークスピア わたし自身の恐れも 未来を予言する 広い世間の預言者の魂も わたしの真実の恋の期間を左右することはできず 冷酷な運命によって没収されるということであろう、 滅びる月は欠けることに耐えてきたのだし 占星術師は哀れにも…

『慣習法と制定法』

『慣習法と制定法』 1.日本法は大陸法の流れが強く制定法主体であるが、英米法は慣習法主体である。 今でもその流れは残っている。 そこで、日米で契約を締結するときには、注意を要する。 たとえば、日本では片務契約と双務契約があるとされるが、英米法…

『新春コロナ雑詠』(短歌系・2021.1)

『新春コロナ雑詠』(短歌系・2021.1) 平凡の ヘブンに近く カナブンの ブンブンに似て ひとり賑わう おまえさん ここが痛いよ いや違う 壷を押さえて ぐっと揉んでよ わが生が 小説よりも 奇なりとは 思えぬままに コロナ拡大 いい人の 振りをするのも ひと…

春野たんぽぽ詩集『赤い表札』

春野たんぽぽ詩集『赤い表札』。第一部赤い表札では故郷を舞台に少女時代の思い出が正直に語られる。第二部環状線では大阪に出てきてからの経験が故郷との対比の下に描かれる。詩は次第に現実にフィクションが加わり立体性とユーモアが魅力を強める。独自の…

南原充士のプロフィール(2021年)

南原充士(なんばら・じゅうし)のプロフィール 2021年6月現在 1949(昭和24)年2月7日生、茨城県日立市出身 1972(昭和47)年3月 東京大学法学部卒 日本詩人クラブ会員 本名 桑原 薫(くわばら・かおる) 詩、小説、575系短詩、57577系短詩…

小説『喜望峰』の感想

小説『喜望峰』を読んだ感想を、下記のように寄せてくれた方がいます。 このような言葉は実にありがたく励みになります。皆様も是非宜しくお願いいたします! 「小説は楽しく読ませていただきました。白金の採掘という ロマンあふれるビジネスが興味深かった…

2021年 丑年

2021年 丑年 目覚めると あふれる光が 新しい年を知らせる 沖を行く老朽船の 針路を示す計器盤 電波は見えない 年を越せなかった命が 凍らせる背筋 生者は黙々と歩き出す どんなことがあっても 乗り越えていこう もぐもぐと草を食む牛の群れ