南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

シェークスピア

シェークスピア ソネット 125

ソネット 125 W. シェークスピア 天蓋を運ぶ役割はわたしにどんな意味があったのだろうか? わたしの外観によって世間的な敬意を表するというような あるいは永遠に保持されることを目指して設置した大きな基盤が 荒廃や崩壊よりも更に速やかに毀損してしま…

シェークスピア ソネット 124

ソネット 124 W. シェークスピア わたしの心からの愛が時勢の子供なら それは運命の女神の私生児として父無し児かもしれない 時の愛あるいは憎しみに左右される 雑草の一種あるいは集められた花の一束にすぎないだろう、 いや、それはたまたま作られたもので…

シェークスピア ソネット 123

ソネット 123 W. シェークスピア いやいや、時よ、わたしが変わりゆくとしても、勝ち誇るべきではない、 新たな権力によって建てられたその尖塔も わたしにはまったく目新しくはなく、新奇でもない それらは過去の光景の新たな装いにすぎない、 われわれの寿…

シェークスピア ソネット 122

ソネット 122 W. シェークスピア あなたの贈り物、ノートブックはわたしの頭の中にあります いっぱいに書き込まれた忘れ難い記憶は いつまでも、というより永遠に 様々な雑多な書き込みによって残っていくでしょう、 あるいは少なくとも頭と心が 与えられた…

シェークスピア ソネット 121

ソネット 121 W. シェークスピア 放埓でないのに放埓だと非難されるとき 放埓だとみなされるより実際に放埓である方がましだ 自分の感覚ではなく他者の見立てで判断されるなら 自分が正しい行いをしているという喜びさえ失われる、 なぜ他者の偽りにして淫ら…

シェークスピア ソネット 120

ソネット 120 W. シェークスピア かつてあなたにされたひどい仕打ちを今度はわたしがしてしまった その時感じた自分の悲しみを思うと 今のわたしは罪の意識で頭を垂れるしかない わたしの神経は真鍮でもなければ鋼鉄でもないのだから、 なぜなら もしあなた…

シェークスピア ソネット 119

ソネット 119 W. シェークスピア 内部が地獄のように汚れたフラスコによって蒸留された サイレンの涙をわたしはどれほど飲んだのだろうか? 恐れを望みに 望みを恐れに塗布して 自分では手に入れたと思ってもいつも失い続けたのだった、 なんという拙い過ち…

シェークスピア ソネット 118

ソネット 118 W. シェークスピア わたしたちの食欲をさらに旺盛にするために わたしたちがわたしたちの味覚を強い薬で刺激するように 将来罹るかもしれない病気を予防するために わたしたちが今病気になることで将来吐き気を催さないようにするように、 わた…

シェークスピア ソネット 117

ソネット 117 W. シェークスピア こんなふうにわたしを責めてもいいですよ、すべてを蔑ろにしたと あなたの素晴らしい恩恵に報いるべきであったのに 日々絆によってわたしが結びつけられるべき あなたのこの上なく貴い愛を求めることを忘れてしまったと、 わ…

シェークスピア ソネット 116

ソネット 116 W.シェークスピア 心から愛し合う者同士の婚姻を妨げるものがあるなどということを わたしは決して認めない、なにか事情の変化で変わるような愛は あるいは心変わりする相手につられて変わってしまうような愛は 本当の愛ではない、 いや!本…

シェークスピア ソネット 115

ソネット 115 W. シェークスピア これまでにわたしが書いてきた詩行は偽りです わたしはこれ以上あなたを愛することはできませんと言ったことさえ、 当時のわたしの判断力では わたしのこれ以上ない愛の炎が 更に強まるなどと想像する理由など思い当たらなか…

シェークスピア ソネット 114

ソネット 114 W. シェークスピア あるいはわたしの心はあなたという王冠を戴いているので 王の疫病である追従を飲み干すということなのでしょうか? それともこう言ったほうがよいでしょうか?わたしの目は真実を述べており あなたへの愛がわたしの目にこの…

シェークスピア ソネット 113

ソネット 113 W. シェークスピア わたしがあなたのもとを去ってからはわたしの眼は心にあります わたしが出かける時にわたしを支配するものが その機能を放棄して部分的な盲目となっています 見えているように見えても、実際にはよく見えていないのです、 な…

シェークスピア ソネット 112

ソネット 112 W. シェークスピア あなたの愛と憐みが わたしの額に刻印された低俗な噂の傷跡を癒すのです わたしを良いとか悪いとか言う声があっても気にしません あなたがわたしの悪を覆ってくれ良さを認めてくれるからです、 あなたはわたしのすべてです …

シェークスピア ソネット 111

ソネット 111 W.シェークスピア おお!わたしのためにあなたは運命の女神をたしなめてくれませんか? わたしを悪行に走らせた罪深い女神を 女神がわたしの生涯に与えたものは 俗世間の流儀で稼ぐ俗世間の実入りでしかなかったのでした、 それゆえわたしの名…

シェークスピア ソネット 110

ソネット 110 W. シェークスピア ああ!そのとおりです。わたしはあちこちで遊んでいました そして自分を世間の笑いものにしていました 自分の考えに角を突き刺し、大切なものを卑しめました 新しい愛情によって旧来の罪を重ねたのです、 わたしが真実さえも…

シェークスピア ソネット 109

ソネット 109 W. シェークスピア おお!わたしが不貞を働いたなどと言わないでください あなたが不在の間わたしの愛の炎が弱まったように見えたとしても わたしが自分自身を去ることはたやすくないでしょう あなたの胸にあるわたしの心を去るのと同様に、 そ…

シェークスピア ソネット 108

ソネット 108 W. シェークスピア 頭の中にはインクで記され得るどんなものがあるのだろう? それはわたしの本当の心をあなたに示すことができていないのだが わたしの愛あるいはあなたの優れた美点を表す 新しい言葉や今記録すべきことがあるのだろうか? な…

シェークスピア ソネット 107

ソネット 107 W.シェークスピア わたし自身の恐れも 未来を予言する 広い世間の預言者の魂も わたしの真実の恋の期間を左右することはできず 冷酷な運命によって没収されるということであろう、 滅びる月は欠けることに耐えてきたのだし 占星術師は哀れにも…

シェークスピア ソネット 106

ソネット 106 W. シェークスピア 過去の年代記を見ると 極めて美しい人々の記述があることに気づく 美の叙述が作り出す美しい古代の韻文は 貴婦人や愛すべき騎士たちを称賛している、 そして とびきり素敵な美男美女の 手や足や唇や目や眉を描く筆致を見ると…

シェークスピア ソネット 105

ソネット 105 W. シェークスピア わたしの愛を偶像崇拝と言わないでほしい あるいはわたしの恋人が偶像のようだと なぜならわたしのソネットや称賛はいつも似ており ただひとつのことをいつまでも述べ続けるからだ、 わたしの愛は今日も優しく明日も優しい …

シェークスピア ソネット 104

ソネット 104 W.シェークスピア 美しい友よ、わたしにとってあなたが年老いるなんてありえないことです なぜならはじめてわたしがあなたと目を合わせた時から あなたの美貌はいつまでも変わらないからです、三度の冷たい冬が 三度の夏の盛りを森の枝から揺…

シェークスピア ソネット 103

ソネット 103 W. シェークスピア ああ!わが詩神はなんと貧しい詩しか生み出さないのでしょうか、 その詩才を存分に発揮し得る広範なテーマがあるというのに、 わたしが付け加える称賛の言葉などないほうが 詩の対象はより価値あるものとなるのです! おお!…

シェークスピア ソネット 102

ソネット 102 W. シェークスピア 見かけ上はわたしの愛は弱まっているように見えるかもしれませんが 実際は強まっているのです 表面的に弱まっているように見えても愛する気持ちは少しも弱まってはいないのです 商業的な愛ならば その持ち主が至る所でその極…

シェークスピア ソネット 101

ソネット 101 W. シェークスピア おお怠惰な詩神よ、美に染められた真実を蔑ろにしたことを どんなふうに償うというのでしょうか? 真実も美もわたしの恋人に依存し、 あなたもまた同様で、それによって尊厳を獲得するのです、 詩神よ、答えてください、おそ…

シェークスピア ソネット 100

ソネット 100 W.シェークスピア 詩神よ、どこにいるのですか? あなたのすべての力の根源である彼を そんなにも長い間詩に取り上げることを忘れてしまって あなたの詩才をなにかくだらない詩を作ることに費やし 卑しいテーマにばかり光を当てることであなた…

シェークスピア ソネット 99

ソネット 99 W.シェークスピア 早咲きのすみれをわたしはこのように叱った、 優しい泥棒よ、おまえはどこからその甘い香りを盗んだのか わたしの恋人の香りから以外にはありえないよね? おまえの頬を粧う華麗な紫も おまえがわたしの恋人の血に浸ってたっ…

シェークスピア ソネット 98

ソネット 98 W.シェークスピア 色とりどりの4月が飾り立てた衣裳に身を包み あらゆるものに若さのエッセンスを吹き込む春の間 わたしはあなたのいない時間を過ごしてきた 暗鬱なサトゥルヌスさえ4月には笑って跳び跳ねたのだった、 小鳥の歌声も 様々な香…

シェークスピア ソネット 97

ソネット 97 W.シェークスピア あなたと離れていた期間は、過ぎ去る年の愉悦を失い わたしにとってあたかも冬のような時期だった なんとも凍えるような寒さを味わい、暗い日々を過ごし いたるところに年の暮れ12月の荒涼とした景色を見たことであろうか! …

シェークスピア ソネット 96

ソネット 96 W.シェークスピア あなたの短所は若さだと言う者も、放蕩だと言う者もいる あなたの長所は若さと気品のある遊びだと言う者もいる 多かれ少なかれ長所も短所も愛される あなたは短所もまた自らの長所に変えてしまう、 王座に就いた女王の指には…